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ep44 王子のデート

Author: 根上真気
last update Last Updated: 2025-05-14 07:01:05
【2】

フェリックスの見事なコーディネートで、リザレリスは〔ウィーンクルム〕の首都〔デアルトス〕の観光を楽しんでいた。一般的な観光名所はもちろんのこと、お洒落な店から芸術鑑賞まで、盛りだくさんだった。

その間、会話が途切れることもなかった。フェリックスは話題も豊富で、あらゆることに詳しかった。優雅で気品もありながら、ジョークを言えるユーモアもある。それでいて聞き上手でもあった。

結論。フェリックスは完璧だった。リザレリスは確信した。彼のような完璧美男子に、こんな完璧なデートまでされたら、普通の女なら間違いなくオチるだろうと。前世では遊び人男として数々のデートを重ねてきた自分だからこそ、より強く思った。

「フェリックス王子って、絶対めちゃくちゃモテるよね?」帰りの夕方の馬車の中、隣に座るフェリックスに向かいリザレリスは言った。本音だった。

「モテることと愛されることは違うからね」

フェリックスは自然な笑みを浮かべた。

「うわっ、それ完全にモテる奴のセリフだ!」

「ハハハ。本当にリザレリス王女は面白い人だ」

「ふふん。俺...わたしは、これでも愛され王女だからなっ」

リザレリスがドヤ顔を決め込むと、フェリックスはその顔を覗き込んでくる。「確かに、愛したくなる王女だ」

「!」リザレリスはドキッとする。フェリックスから男の色香を吹きかけられた気がした。しかも恐ろしく香ばしい、高貴で危険な香り......。

「で、デアルトスって、良い街だな!」

誤魔化すようにリザレリスは顔を背けて窓に目をやった。

「リザレリス王女にも気に入ってもらえたかな?」

フェリックスはリザレリスの顔を見ている。

「なんというか〔ブラッドヘルム〕よりもずっと近代的で発展しているっていうか。高い建物もたくさんあって、塔もあって橋もあって、道も舗装されていて、色んな店もあって」

「デアルトスは我が国で最も発展している都市だからね。いや、世界でも有数の近代都市といって間違いないだろう」

「それでいて歴史的な趣きもあって、綺麗だけど味もあるっていうか(前世に本で見たことある昔のヨーロッパの大都市みたいな感じかな......)」

「綺麗だけど味もある、か。可愛らしいけどヤンチャで棘がある、野バラのようなリザレリス王女が言うと説得力がある」

フェリックスは揺るがない笑みをリザレリスに向けてくる。

「......」

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